ぼくのエリ 200歳の少女 2010/07/21[Wed] 吸血鬼出現

>画像、チラシより。

同級生に虐められ心に闇を抱えた少年オスカー。
ある夜、住んでいる住宅の中庭でナイフを木に突き立てていたところ
最近引っ越して来た不思議な雰囲気を持った少女エリと出会う。
夜な夜な２人は中庭のジャングルジムで出会い、意識し始めれば
お互いを引き合う存在へと発展させてゆく。しかしエリには人には
知られてはいけない秘密があり…。

公式サイト→｢ぼくのエリ　200歳の少女｣

闇に息づく孤独な魂ふたつ…悲しくも壮絶な秀作。

これより先はあくまでも私個人の思い込みによって
振り回された感想である事を念頭に置いてお読み下さい。
いやはや、驚きました。劇場本編観賞後と購入したパンフレットの解説を
読んだ後で感想が180度覆った作品は初めてで、その経緯も含め面白い
体験ではあったのでそのまま書き記します。

私にとっては劇場版は内容が読み取りにくかった作品で、
考えようによっては極めて不可解な扱いをされて公開となった珍しい作品
なのかも知れません。一体どんな経緯でこういった｢副題｣と｢ぼかし処理｣
を施されたのか…担当者に真意を発表していただきたいと思ってしまった
くらいです。私は全くの情報無しで鑑賞して後、パンフレットで
“その実態”を知ったのですが“その実態”を知った後の方が、
作品に一層の深みを与えてくれたので教えて頂いて良かったです。

☆以下、作品の内容に触れています。

私がこの劇場公開されたボカシ入りバージョンで初めに抱いた感想
ですが、エリ自身が告げる、自分が｢女のコじゃなくても…｣と訳された
セリフと｢副題とボカシ処理｣で印象付けてしまったエリの存在感から、
“200年も生き続けている本当なら少女と呼べない存在”と考えて
しまった事が見誤りの原因で、正しい情報を知らずとは言え
作品の抱く最も重大な心理状態から脱線させてしまったものの様でした。
エリを女のコと見たせいで、オスカーとエリの２人の関係性と、
作品の魅力を別の角度で捉えてしまい｢少女ヴァンパイアと出会った
心に憤りを隠し持った無垢な少年の恋物語｣と一端は受け止めました。

しかし作品をもう少し知りたいとパンフレットを購入し解説を読んで
みたところ、なんとボカシのかかっていたシーンには男性性器を
切り取られた痕があると言う記事があり、そこから私の見方がかわり、
ならば｢性を切り取られた、言い換えれば肉体関係を伴わない究極の
恋愛関係が成り立っている状態｣なのでは？と思い直し、
このニュアンスをストレートに劇場で体感していれば、間違いなく
凄まじい傑作と感じられた瞬間があったとのではと、
惜しい気持ちにもなりました。

最終的にはボカシ処理された場面のボカさない状態を知った上で出した
評価はさらに上がり、より完成度の高いものとなったのですが
いったい何故、この副題とボカシを入れてしまったのでしょうか。

副題の｢少女｣に関しては、“見たままの姿”そのものが精神状態と同じと
言った心理的ニュアンスも含まれますので、映画を見た限りでははっきり
と解らないのでそこはそれでも良いのですが、解らないのはボカシです。
エリの露になった股間にボカシを入れたシーンは、単なる日本映画界の
宿命と受け止め、男のコだったのに女のコと取ってしまった事で、
私はいわゆるボーイ・ミーツ・ガール的ニュアンスの物語と思い込み、
作品の魅力を損ねて受け止めてしまっていたと言えます。
それに関してはまさかとは思いますが、そこにボカシを入れる事に
よって“ボーイ・ミーツ・ガール”と言う印象を受け取るように仕向け
られていたとしたら、それは第三者によって情報を曲げる事による
作品の作り替えとも取ってしまえそうな状態で、だとしたら作品への
許し難い行為に他ならないワケで日本の映画公開時の汚点と
なってしまう事は必至ですからそんな意図は決してなかったはず。
傷があるだけの股間をボカした意図が全くもって解りません。
要は私がエリのセリフや散りばめられたいくつかのアイテムから
ちゃんと読み取っていれば誤認せずに済んだ話で、
この２人に“性別”を感じてしまったのは私の配慮不足とも言えます。

劇場公開版ではそんな受け取り方になってしまいましたが
DVD化の際にはせめて“ボカシ処理”無しでお願いしたいものです。
そここそが最も重要な意味を持つ場面と言えそうなのですから。

それでも劇場で観た第一印象は良かったです。
得体の知れない少女への恋心によって、少年の精神の変貌が
自身の変身を求め強固な存在へと息吹く姿は、繊細で瑞々しく、
逞しくも健気で胸を熱くさせ、やがてお互いが隠し持つ共生関係が
もたらす暴力的なニュアンスは非常に恐ろしく、
人を殺さなければ失いたくないなものを守れないであろう行く末の待つ
無垢で小さな殺人者２人の旅立ちが壮絶な悲しさを誘って来て
“既に少女と言う年齢では無くなっている存在の少女”と
“人間じゃない存在に恋をしてしまった少年”の禁忌を描いた
かわいらしくも後味の悪いホラーとしての傑作に思えました。

そしてパンフレットを読んでエリの本当の姿を見つけると
その第一印象に“性を切り取られた、すなわち肉体関係を伴わない
究極の恋愛関係が成立している状態”がプラスされ、無垢さに
さらに磨きがかかり、２人の存在感が遥かに増して来ました。
これは凄いです。何もかも超越する存在だからこその姿が
こんなにも愛おしくも残酷で悲しい。

この尖り方は半端無いでしょう。凄まじい傑作とみました。


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